Son of the Smith Hard Cider

りんごのお酒といえば「シードル」。そんな日本に「ハードサイダー」という新しい風を吹き込んだブランドがあります。

名を生む「NAUM」が生んだ名前のいまを見に行く旅。今回は長野県にある2軒のリンゴ農家がはじめたサイダーブランド「Son of the Smith Hard Cider (サノバスミスハードサイダー)」を紹介します。

「名は体を現すって本当だなって思うよね」。そう話すサノバスミス代表で宮園の宮伸光さん、通称ノブさんと、まだ葉がつかない春先のリンゴの木を眺めながら、サノバの挑戦とネーミングについて考えます。

Writing:Jun DAIKICHI (NAUM.inc) Photo:Shinkouenji Posuke


ここに、サノバスミスが2017年にはじめて作ったフライヤーがある。

「さよならシードル。」

そう大きく掲げられた言葉がサノバスミスのはじまり。これまでの日本における「リンゴのお酒=シードル」という認識に対して小さく反旗をし、新しい文化をつくろうとしている。

そもそもシードルという名前はフランス語のcidreからきている。そしてcidreは英語ではサイダー(cider)だ。日本でサイダーというと、三ツ矢サイダーの人気もありソフトドリンクの炭酸飲料のイメージだが、そちらはソーダ(soda)で、本来はリンゴのお酒という意味である。
リンゴの栽培は約8000年前、ワインの醸造も約6000年前にはじまったというから、リンゴのお酒の起源もずいぶん古いことは明らかだろう。世界中で古くから親しまれ、それぞれの地域で製法や味など独自の発展を遂げている。フランスではシードル、イギリスではサイダー、スペインではシードラ、ドイツではアップフェルワイン、アメリカではハードサイダーと、名前も様々だ。

日本でリンゴ発泡酒としてシードルが販売されたのは1956年。果実加工の視察で欧米を訪れた青森の酒造メーカーの社長がリンゴの発泡酒に注目、帰国後の1954年に朝日麦酒(現アサヒビール)と連携し、朝日シードルを設立した。これが日本における産業としてのシードルのはじまりと言われる。
そこから半世紀以上過ぎ、近年はリンゴの生産地を中心にさまざまなシードルがつくられるようになった。ワイナリーが多く、酒造会社やブルワリーが手がけることもある。

「昔は、シャンパン用の酵母を使って、ワインと同じような製造方法でシードルをつくっていることがほとんどだったね。でもワイナリーが原料となるリンゴにこだわっているかというと、そうでもない気がしていて。それはブドウ栽培がメインだからしょうがないかもしれないんだけど、やっぱり自分たちはリンゴ農家だし、リンゴそのものに思い入れがあるわけだから、どこかモヤモヤした思いはあったよ」

その思いが、どのように今につながったのか。はじめてのフライヤーでは、ともにサノバスミスをつくる小果樹園の小澤浩太さんとノブさんの対談形式でこう書かれている。

日本のシードルへの小さな違和感と、もともと持っていた探究心。ポートランドで出会った創造的なハードサイダーのカルチャーに衝撃を受けたノブさんは、こうして「農家にしかできないシードル」づくりの挑戦をはじめた。

「探求心っていうのは親父から引き継いでいるのかもしれない。宮園は1927年に一本の紅玉の樹からはじまったんだけど、おいしいリンゴを育てるために土や肥料を研究して広げてきたんだよね。親父は育種にも積極的で『浅間クチーナ』というオリジナルの新品種をつくったりもしていて。俺は弟と一緒に家業を継いだわけだけど、単に親がやってきた栽培を続けるんじゃなく、こだわりや探求する力も継いで、新しいことに挑戦する気持ちで農業をやってるよ」

園では「つがる」や「紅玉」「シナノスイート」といった生食用の品種を育て出荷するほか、10種類ほどのリンゴを試験的に栽培している。その多くは、醸造用品種だ。しっかりとした規模で栽培するのはおそらく日本初だという。海外の専用品種の試験栽培以外に新たな品種を生み出すために育種も行っている。

「海外には専用品種があるんだけど、日本にはなくて。だったら、つくれるのは俺だけ!やったら1番になれる!って(笑)でも育種って手間がかかるし本当に難しい。品種改良は一般的に20年以上かかると言われるよね。気候も変わっていっているし、どんな新しい品種がつくれるか、試行錯誤しながら挑戦しているところだね」

2015年にポートランドを訪れたことからはじまった挑戦も10年近くになる。これまで90種類以上のハードサイダーをつくってきた。その歩みはこちらに詳しくまとめられている。ちょうど取材のとき、クラウドファンディング中で、すでに初期の目標金額は達成し、ネクストゴールに向かって進んでいるところだった。
https://camp-fire.jp/projects/view/689976#menu

「こんなにたくさんの人が応援してくれているんだって驚いた。メッセージを読むと、愛してくれていることが伝わってきて本当に胸が熱くなったよ」

ファンであるお客さんたちからは「サノバ」と短く呼ばれることが多いという。

「みんな呼びたくなるんじゃないかな、響きがいいよね。はじめてサノバスミスという名前を聞いた時から、意味も含めて気に入っているよ」

Son of the Smith、直訳だと「スミスの息子」というその名前は、ノブさんたちがつくった1stバッチが、グラニースミス(Granny Smith)という青リンゴを主原料につくられたことに由来する。そのGranny Smithも「スミスおばあちゃん」という意味で、1868年、オーストラリアのマリア・アン・スミスがリンゴを庭に植えたものからできた品種と言われている。
長い時を経て、スミスおばあちゃんのリンゴが日本でハードサイダーという息子を産んだわけだ。

「はじめて自分たちでつくったハードサイダーに付けた名前がサノバスミスだったわけ。だから、シードルにはまって、ポートランドで衝撃を受けて、学んで、つくってという、あの熱狂というか狂気の時間や空気も、その名前はまとってるんだよね。サノバっていうと、サノバビッチっていう言葉も思い浮かぶと思うんだけど、そういうちょっと悪態をつく感じも、当時の自分たちの雰囲気にあっている気がしている」

だから「さよならシードル」。これまでの日本のリンゴ酒文化に軽やかにケンカを売るような、その挑戦的な言葉は、サノバスミスという名前と響きあって、完成していた。

当初は、商品名だったサノバスミス。2019年には社名として引き継がれる。
「社名ってずっと続くものだし、なかなか変えることができない。だからこそ、自分たちはサノバスミスだよって言うことで、はじめたころの挑戦する姿勢を忘れないようにしたい」

サノバスミスと名付けたwoodyことNAUM代表の平賀は、そのWEBで「名前は、拠りどころであるし、変わらぬ旗印でもある」という文章を書いている。まさにサノバスミスという社名は、父から引き継ぐノブさんの探究心や新しいものへの挑戦の気持ちの拠りどころにもなっていた。

「すごいよね。いつでも立ち戻れる社名がついてるって。語呂がいいとか響きがかっこいいだけじゃなくて、ちゃんと考えられてるんだよ。商品名もwoodyが付けているけど、おもしろいでしょ。ぜひWEBに載せている商品紹介のSTORYも読んで欲しいと思う」

たとえば2021年につくられた「サノバスミス キピヘイジ」のSTORYはこうだ。

サノバスミスSP キピヘイジは、年に1度の特別醸造を施す「SP」ライン。じっくりと仕込んだこの沢なダブルニューイングランドスタイルホップサイダーは、リンゴとホップ、畑の実りへの感謝を表現します。

前作とは全く異なる設計により完成した今年のキピヘイジは、グラニースミスの活用、木発酵と多段階発酵のブレンド、フレッシュホップルプリンパウダー・熟成ホップの追投入など、原材料面と醸造技術面の双方でアップデートを行いました。

四季から採取した農産物の融合体であるキピヘイジのシャープな飲み口・気高い香り・じっくり続く余韻は、Farm to Cheersをしっかりと感じさせてくれる仕上がりとなっています。

Hazyは繰り返す季節にむモヤ。まだまだ見えないこの道の到達点。道のりの先はがかっているけれど、その一歩一歩をしっかりと踏みしめながらずっと続けていく手探りの冒険。毎年、季節を繰り返しながら、2度と同じ環境条件がわない中でベストを尽くすべく自然に対し続ける農業の姿。

先が見えないからこそ、れ出る好奇心と心躍らせるビートに乗っかって、日々の徒然を丁寧に味わっていく。

たまには力を抜いて、Keep it easy, Keep it hazy。

「いつだったか、昔つくったバッジをもう一度同じ商品名でつくろうとしたことがあったんだけど、woodyにその名前はあの時の雰囲気で付けた名前だからやめようって言われて。ちゃんと時代とか世の中の雰囲気とかをみてるんだよね。社名のような変わらない名前、商品名のような変わる名前、流行りもあると思うけど、その名前になる理由というか意味や答えをwoodyはしっかり持っているのはすごいと思う」

サノバスミスのネーミングなどデザイン・コミュニケーションを初期から担当するwoodyのことを信頼しているというノブさん。生み出されるさまざまな名前や制作物に、一度も違和感は抱いたことはないという。

さて、サノバのいまの挑戦。クラウドファンディングは無事に目標金額を達成した。そのお礼のメールには以下のように書かれている。

日常にハードサイダーが溶け込んだ世界を次世代の先の未来にもげていきたいし、畑から自分たちが好きなものをずっと作り続けていきたい。変わらないこの思いを実現させるための数々のチャレンジを、皆様からいただいた勇気を持って、真っ直ぐに取り組んでいきたいと思います。

日本のサイダー産業は絶対にもっと面白くなるし、これから果樹産業や果実酒造を志す未来の子供たちにもちゃんとがっていくはず。
フランスのレジェンドメーカー:Eric Bordelet氏がハカセにかけてくださった助言、「日本らしいアイデンティティを大切にすること」「見つけ出した自分たちの道を進むこと」。答えはすぐには出ないけれど、これをずっと反し、今日・明日・今年できることを皆様と一緒に楽しみながら、またひとつひとつ積み重ねていきます。ハードサイダーで乾杯しましょう!

ハードサイダーがつくる未来の景色はどんなものだろう。
これからも世界に小さく悪態をつきながら自分たちの道を進んでいく。
その名がまとうように、いつでもサノバはチャンレンジャーだ。

Son of the Smith Hard Cider (サノバスミス)


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制作の流れはこちらもご覧ください。

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